18/07/22 夏の幻

うだるような暑さの夏。

朦朧とする意識の中で、少年は女神に出会った。

 

「あなたは、女神様…!」


『ここはトウキョウ最果ての地、マチダ。

迷える子羊よ、シンパの民に何かご用ですか』

 

女神の背後にいた、シンパの民と呼ばれた者たちが騒ぎ出す。

 

「アツイタノシイアツイ」「ケンガクシャダ」「ケンガクシャダ!」

 

マチダと呼ばれる場所で、数十の視線が値踏みするように少年に注がれる。

よく見るとシンパの民と呼ばれる女神の取り巻き達は皆、管のような物を口に咥えている。

 

「女神様、その手に持っている物は何ですか」


『ピッコロと言います。しかしこれは選ばれし者にしか扱えません。

サイズと価格が合いません。音程も合いません』


「女神様、とにかく暑くて死にそうです…水を、水をください…」

 

少年は限界だった。暑さで会話が頭に入ってこない。心なしか酸素も薄い気がする。

 

『ここに冷たいほうじ茶があります』


「……おぉ、ありがたい!」

 

感激した少年は、命の水とばかりにほうじ茶に手を伸ばす。600mlのお得なやつだ。

 

『なりません!』


「…!?」


『ここは飲食禁止です。ここはナガヤマではない』

 

(ナガヤマ…?)

 

その響きに聞き覚えがあった。確か自分は、いつだったか同じ真夏のうだるような暑さの日に、

ナガヤマという場所でシンパの門を叩いたのではなかったか。

 

「女神様、私はどこかであなたに…」


『そう、今も隣に』


「私はもしかして、シンパの民なのでしょうか」


『シンパティーア』

 

女神が微笑み、手を差し出す。

 

『さぁ、ピッコロを吹いてください』


「え」

 

『ピッコロお願いします』


そこで目を覚ました。指揮者が目の前にいて、自分はピッコロを持っていた。

今週でちょうど入団して3年が経つフルート団員の話。

 

 


(この物語はフィクションです)

 

 

【Fl.がーすー】